向島デザイナーズ2015 報告
墨田区は、東京23区中唯一大学のない区である。工場等立地法の下、長らく大学の立地が制限されてきた。そのため、大学誘致は墨田区にとって悲願であり、区民の関心も高い。実際に、大学をこの計画敷地に誘致する計画が数年前から積極的に推進されてきた。そこで2015年度は、そのケーススタディとして、墨田区文花一丁目のすみだ中小企業センターと旧西吾嬬小学校と旧曳舟中学校の跡地に大学キャンパスを計画し、その校舎等関係施設を設計する以下の3課題を出題した。
向島大学・リサーチスタジオ(スタジオとホールを併設する研究棟)
全国的に高齢化が進展しているが、向島は木造密集住宅地であることから、高齢者が密集居住しており、保健・福祉関係のニーズが高い。また、向島は、東京観光の拠点ともいえる東京スカイツリーが近くにあり、海外からも多くの観光客を迎える地域になりつつある。そこで、向島大学キャンパスの北端には、地域のニーズに対応した地域振興・保健・福祉の専門分野に関する国際的にもトップクラスの大学院大学を設けることとする。本計画には、教員の研究室や大学院生の共同研究室、ゼミ室などからなる研究・教育部門を設けるとともに、広く社会に開かれた大学として、カンファレンスホールや大小セミナー室のほか、フィットネススタジオやリハビリホールも設け、地域にも開放する。
向島大学・ラーニングコモンズ(メディアラウンジのある学習棟)
産学の融合を図る本キャンパス計画の西側に、地域振興の基盤となる教育を行い、学習を支援するラーニングコモンズを計画する。具体的には学部教育を担う大学、開架書庫を中心とするメディアセンター、そして学部学生のみならず大学院大学やラボ関係者、更に国内外から本キャンパスを訪れる研究者を交えた議論と学習の場となる交流施設から構成されるが、各機能は必ずしも明確に区別される必要はない。また地域住民対象のセミナーを開催するなど、施設(の一部)は地域にも開放することとする。隣接する専門的な研究を行う大学院大学や生産技術の発展を担うラボと連携することはもちろん、キャンパス中央にある広場空間と文花中学校との間に立地していることにも留意し、地域に開かれた向島大学の施設として、外部空間を含んだ施設全体をラーニングコモンズとして計画する。
向島大学・クリエーションラボ(展示スペースのある工房棟)
墨田区は小さな町工場・工房が集積し「ものづくりのまち」としての特徴が色濃く見られる。また、墨東まち見世などアート系の活動も幅広く行なわれていることから、近年はものづくり人材とクリエイターとのコラボも行なわれており、創造的活動の場としてのポテンシャルも高まっている。そこで、向島大学キャンパスの南端に、地域のものづくりの資源とネットワーキングし、将来の新たな発展を生み出すため創造的活動を行うクリエーションラボを計画する。この施設では新しいシーズを創出し発展させるための交流や、技術の応用や斬新な方法の開拓を行なうインキュベーション機能を担うとともに、共用の工房等のインフラを備えて、展示、コンベンション等に使える空間を提供して国内外に発信し、文化、産業、交流、観光など、地域発展のポテンシャルを引き出せるような多面的な活動を行なう。
5月30日に3課題のグループ単位で現地見学会を実施した後、西あずま集会所にて説明会を開催した。まず、佐原滋元・理事長が向島学会として取り組んできた「あづまの歴史掘り起こし隊」の成果http://www.mukojima.org/activity/post/2014/をもとに、計画敷地に関わる歴史について話をし、続いて、曽我高明・副理事長も向島学会がとして取り組んできたアートプロジェクトを中心に向島のクリエイティヴな活動の動向を紹介し、課題について深める題材を提供した。
7月26日にユートリアのエントランスホールで開催された展示発表会では、向島学会の理事らが2時間以上かけて講評・審査した。最終的には、投票の結果、最優秀作品として上川正太郎さんの作品が表彰対象になった。また、各課題の優秀賞として「リサーチスタジオ」は田辺優里子さん、「ラーニングコモンズ」は関野夏菜さん、「クリエイティブラボ」は古屋絵理さんの各作品が選ばれた。また、向島学会の理事がそれぞれ選ぶ特別賞は、阿部賞に滝沢里穂さん、清水賞は小久保友貴さんと室町瑛人さん、曽我賞は小泉裕聖さんがそれぞれ表彰された。