活動紹介 : 「向島スタディーズ」と「向島デザイナーズ」 | 2015/02/20

「向島デザイナーズ」-大学の授業と連携した取組み- 2011、2012、2014年度の活動

向島学会は、発足当初から大学と連携した取組みを進めており、毎年3月に向島に関する研究成果を発表し合う「向島スタディーズ」を開催している。

それに加えて、2011年度から明治大学理工学部建築学科と協働して向島の将来に関する建築の提案を発表する「向島デザイナーズ」を実施している。具体的には、3年生春学期の建築設計演習科目「計画・設計スタジオ1」の中に位置づけられ、設計課題の出題や現地説明会の開催にも協力している。これまでに出題された課題と実施の概要を紹介する。

2011年度「向島デザイナーズ」

2011年度は、墨田区立向島中学校(2013年3月に閉校し、鐘ケ淵中学校と統合して桜堤中学校として開校)を計画敷地とし、地域コミュニティ施設(体育館や防災倉庫等)に宿泊施設や研修室、アートギャラリー、工作室等を併設した「向島アートコミュニティセンター」という複合施設を計画・設計する課題を担当教員の山本俊哉教授と武富恭美講師が向島学会の正副理事長等と話し合って出題した。「計画・設計スタジオ1」の後半の3課題のひとつであったが、これが向島デザイナーズの取組みのモデルになった。

6月4日に向島学会の正副理事長等が現地説明会を行った後、学生十数名が7週間をかけてこの課題に取り組んだ。7月23日にはユートリア(すみだ生涯学習センター)のエントランスホールで、この課題を履修した学生の作品を展示し、発表・講評会を行った。最も優れた作品として表彰された岡俊宏君の提案は、改築するという課題を逸脱し、中学校校舎の躯体を残してリノベーション(価値を高める改修)により実現するものであった。

岡俊宏君など表彰された4作品は、ヨコハマトリエンナーレ2011の特別連携プログラム「BankART Life3 新・港村--小さな未来都市」の向島学会のブースに8月下旬から10月下旬まで交代で展示する機会を得た。

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ユートリアで開催された「向島アートコミュニティセンター」学生提案の展示発表会
md_3.jpg 新・港村に展示された鈴木修斗さんの作品

2012年度「向島デザイナーズ」

2011年度の取組みが向島学会と明治大学の双方において好評であったことから、2012年度の「計画・設計スタジオ1」の後半の3課題は全て向島から出題することになった。具体的には、墨田区の統廃合計画対象校の中から、①墨田区の北部(旧・向島区)に立地し、②周囲に木造密集市街地が広がり、③敷地面積が6,000〜8,000㎡程度の小中学校を絞り込み、地域における社会的ニーズと学習目標の両面から次のとおり設定した。

隅田小学校跡地を活用した起業活動支援施設「すみだインキュベーションセンター」
30室程度の研究開発室、ミーティングスペース、映像スタジオ・音響スタジオ・プレゼンルーム等を備え、新しい文化芸術産業を創成する支援施設

向島中学校跡地を活用した居住型製作表現活動支援施設「すみだ地域創意フォーラム」
制作者が2〜3年間居住しながら周辺住民と連携した表現活動や墨田区内の工場・工房を活用した創作活動を行い、その成果を広く国内外に発信する活動支援施設

木下川小学校跡地を活用した高齢者福祉関連施設「スミダハウス」
比較的自活可能な高齢者が集まって住み、最小限の支援サービスを受けながら、周辺住民と関わりながら生き生きと暮らす高齢者住宅

6月2日に墨田区教育委員会の協力を得て敷地見学会を行い、続いて、すみだ生涯学習センターでそれぞれの課題に関係の深い地元関係者を招いて説明会を開催した。ユーザーの視点や周辺地域のとらえ方に関わる具体的な話は、学生たちが幅広い視野から課題を検討する上で良い機会になったようだ。

7月21日には、7名の担当教員がそれぞれ受け持った学生(平均10名)から2名ずつ選抜した学生作品をユートリアに展示し、発表・講評会を開催した。創意工夫されたアイディアあふれた作品はどれも見応えがあり、公共用地の跡地活用について議論を行う上で有意義な取組みになった。

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学生の提案を熱心に聞き入る向島学会の審査委員
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向島学会の審査委員による作品の講評 明治大学の担当教員のあいさつ

2014年度「向島デザイナーズ」

2013年度は、明治大学が教育・研究の包括的協定を結んでいる川崎市において向島デザイナーズのような取組みを実施したことから休止し、1年間充電期間を置いた。
2014年度は、墨田区向島地域の地理的・歴史的特性を踏まえつつ、①隅田川に面した区有地、②水戸街道に面した都有地、③密集市街地内の工場跡地(民有地)を計画敷地とし、地域における社会的ニーズと学習目標の両面から計画・設計の課題を次のとおりに定めた。

隅田川沿いの親水性の高いスポーツ施設「アクアパークすみだ」
関東大震災後の帝都復興事業により計画された隅田公園を対岸に臨む、かつてレガッタの艇庫やプール、体育館などが在った隅田川沿いの敷地に、この場所の記憶と水辺空間のポテンシャルを活かした水に親しめる公園を計画する。屋内と屋外の2つのプール、レガッタ用艇庫、屋外展望広場などの機能を核として公園を計画して、市民のためのスポーツとレクリエーションの場を提供するとともに、隣接する王貞治記念少年野球場や隅田川、近傍のスカイツリーなどを展望できる場として、水辺とまち、水辺と人をつなげる魅力的な親水公園のデザインの提案を求めた。

水戸街道沿いの敷地に建つ高齢者向け入所・通所施設「向島まちなかケアセンター」
東武曳舟駅の徒歩圏にあり、震災火災時の延焼遮断帯の形成が進む水戸街道に面した、かつての東京都水道局の施設跡地の敷地に、高齢者向けの機能が複合した小規模施設を計画する。進行する少子高齢化とともに高まる地域のニーズに応えるため、通所型のリハビリ・デイケア施設、ショートステイ型の介護施設、短期入所型のリハビリ病院の3つの機能の複合施設として計画し、近傍の商店街や周辺の木造密集市街地との関係にも配慮することで、施設利用者の期待だけでなく、周辺地域の魅力向上の期待に応えられるような施設のデザインの提案を求めた。

密集市街地の中に建つケアとアートの複合型滞在交流施設「墨東アート+ケアハウス」
個性ある佇まいや趣のある風景の残る木造密集市街地の中に立地し、町工場を転用して現代アートと社会を結ぶ活動を行ってきた「現代美術製作所」を含む敷地に、地域社会のケアのニーズに応え、アート活動の核となる複合型施設を計画する。アーティスト・イン・レジデンスのためのアトリエ住戸、ギャラリー、スタジオ、カフェ&ベーカリーからなるアートセンターと、診療所兼在宅看護支援センターを併設し、豊かな共用部を持つ高齢者向けケアハウスの複合施設として、地域の多様なアクティビティを受け入れ、アートとケアが出会う場所のデザインの提案を求めた。

5月31日に3つの課題のそれぞれの合同見学会を実施した後、一寺言問集会所にて説明会を開催した。まず、佐原滋元・理事長が向島学会として取り組んできた「寺島の歴史掘り起こし隊」等の成果をもとに、3つの課題の計画敷地に関わる歴史について話をし、続いて、曽我高明・副理事長も向島学会がとして取り組んできた墨東まち見世等アートプロジェクトを紹介し、課題について深める題材を提供した。

7月27日にユートリアのエントランスホールで開催された展示発表会では、向島学会の理事ら7名が2時間以上かけて講評・審査した。最終的には、投票の結果、最優秀作品として茂野夏美さんの作品が表彰対象になった。また、各課題の優秀賞として「アクアパークすみだ」は進藤沙友美さん、「向島まちなかケアセンター」は向山直登さん、「墨東アート+ケアハウス」は中村教祐さんの各作品が選ばれた。

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一寺言問集会所で開かれた現地説明会 ユートリアで開催された展示発表会
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向島学会メンバーによる公開審査会 優れた提案を表彰
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進藤沙友美さんの「アクアパークすみだ」提案 向山直登さんの「向島まちなかケアセンター」提案
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中村教祐さんの「墨東アート+ケアハウス」提案 茂野夏美さんの「墨東アート+ケアハウス」提案