向島デザイナーズ2017 報告
向島学会では2011年以降、向島地域を対象にした地域の将来に関する建築提案発表会「向島デザイナーズ」を実施してきました。
ここでは、2017年度の取り組み・実施概要をご紹介いたします。
向島デザイナーズ2017 報告
墨田区北部の向島地域は、東京都内でも有数な木造密集市街地として知られる。関東大震災後の昭和初期に一気に市街化された。東京大空襲では甚大な被害を受けたが、戦前からの曲がりくねった狭い道路をそのままに再び密集市街地が形成された。その中にある小中学校は、貴重なオープンスペースであり、地域の様々な住民活動の拠点となってきた。首都直下地震の到来への危惧が高まる中、こうした学校の果たす防災上の役割はますます高まっている。そこで、2017年度は、以下の3つの学校施設の計画敷地において、その学校と敷地の特性に留意した課題が出された。
A. 防災広場と隣り合う小学校(墨田区立第一寺島小学校および周辺敷地)
この地域では、第一寺島小学校の略称を冠にした一寺言問(いちてらこととい)地区の防災まちづくりが33年前から続けられている。その取り組みの一環で小学校に隣接する2箇所の小広場が地蔵坂通り沿いにつくられ、地域の防災活動やアートプロジェクトに活用されている。そこで、小学校とその周辺敷地を一体的に活用し、防災広場や消防屯所と隣り合い、地域に開かれた新しい小学校を計画・設計する。
B. クスノキのランドスケープを持つ小学校(墨田区立第二寺島小学校敷地)
校庭の中央にある樹齢400年のクスノキは、この学校の大切なシンボルである。近隣に都立向島百花園があるものの、敷地周辺は極めて緑が乏しい環境であり、かつての下町の名残である水路や路地の跡地に、僅かに植物が散在するばかりである。本課題では校庭にある1本のクスノキの木を手掛かりに、近隣環境にも貢献できるような緑豊かなランドスケープを持ち、地域コミュニティに開かれた小学校を計画・設計する。
C. スポーツを通して地域とつながる中学校(墨田区立寺島中学校敷地)
街路幅員が狭く、交通量が比較的少ない密集市街地である特性を逆手に取って、地域住民の潤いのある生活に寄与できるオープンスペースを内包した「新しい地域の中学校」を建築する。文字通り空地である校庭と屋内運動場、柔剣道場及び地域住民の交流の場となるクラブハウスを、地域に開かれた(オープン)場(スペース)とし、スポーツ施設を地域開放することを前提として計画・設計する。
現地説明会は、向島学会会員でもあり、昨年度まで明治大学兼任講師を務めていた建築家の土屋辰之助氏(STA土屋辰之助アトリエ代表)が設計して昨年12月に竣工した墨田区立吾嬬第二中学校で5月27日(土)に開催された。まず土屋氏に「吾嬬第二中学校の建築計画・設計について」と題して小中学校の建築設計のポイントを講演いただいた。同校の西川由哲・副校長のコメントに続き、「3つの小中学校の建築計画・設計に期待すること」と題して、向島学会の佐原滋元・理事長、清水永子・副理事長、高原純子・理事、墨田区教育委員長の経験もある高木新太郎・前理事長の4名がそれぞれ小スピーチを行った。そして土屋氏と西川副校長の案内で同校の諸室を視察した。課外授業であったが履修者の7割にあたる約50名の学生が参加した。その後、3つの課題ごとに分かれ、向島学会の理事らのガイドで計画敷地とその周辺を見学した。
展示発表会は、7月26日(土)にすみだ生涯学習センター(ユートリア)の1階エントランスにて明治大学建築学科計画・設計スタジオ1との共催で開催された。展示された15作品は、7名の担当教員が受け持った班(平均学生数10名)からそれぞれ2〜3名選出された。
A課題:石川智聖、田口諒、佐塚有希、十文字萌、荻島碧、平野絢子
B課題:田尾みずほ、灰野大樹、大野竜、前田優花、上原 佳広
C課題:小屋峻祐、菅野岳志、成田遼、寺前杏香
展示会は午後1時すぎから行われ、学生が向島学会をはじめとした地元関係者に対してプレゼンする発表会は、午後2時からポスターセッション方式で行われた。例年通り、向島学会の正副理事長をはじめとした理事のほか、墨田区の一般市民が合計20名以上集まった。中には一級建築士や学識経験者もいたが、学生たちは一般住民にもわかりやすいように言葉を選んで発表し、好感をもたれた。それぞれ3分程度の発表の後にそれぞれ質疑応答の時間が用意され、活発な意見交換がなされた。
その後、所定の投票用紙を使って、参加した向島学会関係者が票を投じ、優秀賞を選定した。その結果、最優秀賞は、上原佳広君、優秀賞は、A課題は平野絢子さん、B課題は灰野大樹君、C課題は成田遼君がそれぞれ受賞した。また、向島学会の副理事長が選ぶ特別賞は、清水永子賞は上原佳広君、現代美術製作所賞は大野竜君がそれぞれ表彰された。